糖尿病ケアのための医学知識

日刊ゲンダイに記事が掲載されました

医師 小西

日刊ゲンダイ1月18日「糖尿病治療の現場から」に記事が掲載されました.

糖尿病患者約890万人.糖尿病予備軍と呼ばれる人を含めれば2210万人にものぼるという.まさに日本は糖尿病大国と言えるだろう.そんな状況の中,糖尿病の新薬が10年ぶりに登場して話題を呼んでいる.この新薬は,糖尿病医療にどんな変化をもたらしているのか.糖尿病治療の最前線に迫る本シリーズ,今回は大阪市城東区にある糖尿病専門病院「すみれ病院」の小西俊彰副院長に取材した.

「糖尿病の治療の目的は心筋梗塞や脳梗塞など血管合併症の予防です.このために大事なことは,糖尿病を自己管理できるように,患者さんがきちんとした教育を受けることです.ところが,患者さんの立場にたった糖尿病教育が行われていないのが現状です.たとえば,多くの病院で行われている糖尿病教室は,病院側の都合で時間を決めて実施しているので,忙しい方などはなかなか参加できません.そこで当院では,新たな試みとして,糖尿病教室のライブ中継やインターネット配信で,忙しい方でも自分の都合の良い時間に糖尿病教室が受けられるようにしました」とは,小西副院長.
 治療を行う上で大切なポイントは,患者さんのモチベーションをいかに上げて,納得して治療を受けてもらうかだそうだ.
「糖尿病の患者さんは,人それぞれで状態が違います.食事療法に力を入れないといけない方もいれば,運動療法をもっと積極的にする必要がある方もいる.あるいは,薬の力を最初から借りる必要のある方もいる.食生活や日常生活の様子を色々話していただいて,どこに改善する余地が残されているのかを判断する必要があるのです」
「私はここを頑張りたい,と思う気持ちを汲み取って,一人ひとりの病態を考慮したうえで治療方針を決めているわけです」
 こうしたきめ細かな治療やサポートを実現するために,すみれ病院では,糖尿病専門医の5人体制をしいているのである.
 驚くのは,外食もしたい患者さんのために,近隣のレストランと提携して,糖尿病の患者さんでも食べられるフランス料理のメニューまで開発していることだ.
「評判がいいので,今後もっと拡げて行こうと思っています」とのこと.患者さんたちが治療を中断することなく続けて行くためには,ここまできめ細かくサポートすることが必要なのだろう.

 1年前に登場したジャヌビアなど,インクレチン関連薬の1つである「DPP-4阻害薬」について,小西副院長は,こう話す.
「レガシー効果(後述)からも明らかなように,糖尿病の合併症を予防するためには,できるだけ早く治療を開始し,良いコントロールを持続させることが大切ですが,これまでの糖尿病の薬では良いコントロールに持って行こうとすると低血糖や体重の増加が起こることがあり,それが問題とされていました.DPP-4阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬とは全く違う機序で血糖値を下げる薬でそのようなことが起こりにくいのです.DPP-4阻害薬は,血糖値が高ければインスリンを分泌させますが,血糖値が低いときにはインスリンを分泌させないので,低血糖を起こさずに血糖値を下げることができます.既存の薬では低血糖を避けるため厳格な治療が難しかった患者さんにも,もう1歩踏み込んだコントロールが可能になりました.新規の患者さんに,ファーストチョイスの薬になって行く可能性もありますね」
 血糖をコントロールするインスリンは,すい臓のβ細胞というところから分泌されるが,糖尿病だと診断された時には,すでにβ細胞の機能は半分くらいになっていると言う.しかも,それが毎年4%ずつ減って行くというデータもあるそうだ.
「DPP-4阻害薬は,β細胞を増やすことが,動物実験で報告されています.これがすぐに人間にもあてはまるということではないのですが,β細胞を長期的に維持できる可能性があるかもしれない.これも,この新薬に期待をしていることの1つですね」

 DPP-4阻害薬は低血糖,体重増加,そして長期間使用によるβ細胞機能の低下といった既存の薬剤の課題を克服できる可能性を秘めた薬剤であり,1日1回投与で,食事時間に無関係に投与可能など便利な薬だ.
「しかし,せっかくの良い薬も上手に使わないと十分な効果は得られません.糖尿病というと一般の方は,すべて同じだと思われるかも分かりませんが,我々専門家から診ると個人個人で病気の状態はまったく異なります.糖尿病治療の基本は運動と食事療法であることを患者さんによく理解してもらった上で,患者さんの病態に基づいた治療を選択することが大事です」

【レガシー効果って何?】
「レガシー(遺産)効果」とは,糖尿病と診断された初期に厳格に血糖管理を行うことが,その後の合併症のリスクを小さくすることをいう.つまり,過去にどれだけの期間,血糖値の高い時期があったかが,合併症を起こす危険度のカギを握っているといえる.糖尿病は,できるだけ早く治療を開始した方が,血管などへのダメージが少なく,心筋梗塞や脳梗塞などの病気を起こす確率を下げることができるわけだ.

日刊ゲンダイ連載【第7回】

糖尿病ケアのための医学知識

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